幾何公差がドリル性能に与える影響とは?
ドリル工具の精度や寿命を維持し、高品質な穴あけ加工を実現するためには、幾何公差を考慮することが重要です。そのため、ドリル性能に対して「形状公差」「位置公差」「振れ公差」の3つの幾何公差がどのように影響するかを理解する必要があります。
本記事では、幾何公差が必要な理由や、幾何公差の種類等の基礎知識から、幾何公差がドリルの切削性能や精度、工具寿命に具体的にどのような影響を与えるのか、そして特注精密ドリルを製作する際に幾何公差で考慮すべき2つのポイントまで、詳しく解説いたします。
幾何公差とは?
幾何公差とは、正しい形や位置からズレていても許される領域の値のことを言います。
図面には「Φ0.01」「0.02 A」といった記号が登場することがあります。
これは 幾何公差 と呼ばれるもので、製品の形状や位置のズレをどこまで許容できるかを数値で示したものです。
寸法公差が「長さや径そのもの」を管理するのに対し、幾何公差は「形の正しさ」や「基準に対する位置関係」を管理します。

公差は大きく分けて、「寸法公差」と「幾何公差」があります。
寸法を制御するものが寸法公差です。各部分の寸法を規制します。
それに対して、寸法公差だけでは表現できない、立体的な形状を制御するものを幾何公差といいます。
形状や平行度、傾き、位置、振れなどを規制します。
寸法公差が「長さや径そのもの」の寸法を管理するのに対し、幾何公差は「形の正しさ」や「基準に対する位置関係」などの形状を管理します。 図面には主に「寸法公差」と「幾何公差」が記載されています。
特に高速回転するドリルにおいては、シャンクがわずかに楕円形である、または刃先の位置が軸からずれているといった幾何公差の不備は、切削性能や仕上がり精度に大きく影響します。
幾何公差が必要な理由
ものづくりの現場で使用される図面には、製品を形作るための寸法が記載されています。もし図面に「縦 100mm、横50mm」のみの記載であれば、誤差が生じます。そのため、図面には「100mm ±0.1」のように、許容できる誤差の範囲、すなわち「寸法公差」が記されます。しかし、「寸法公差」により、部品の大きさは指定できても、そのカタチや姿勢、「位置関係」までは厳密に指示できないため、「幾何公差」が必要になります。
幾何公差の主な種類
幾何公差は、単独形体と関連形体の大きく2つに分類されます。
単独形体は、データムに関連しない形体です。
関連形体は、データムに関連する形体です。
そして、単独形体と関連形体に対して、形状公差・姿勢公差・位置公差・振れ公差の大きく4種類に分類されます。
さらにその4種類のいずれかに属する15個の幾何公差特性があります。

形状公差
単独の形体(線、面、円など)が、理想的な幾何学的形状から、どれだけ狂っているかを規制します。他の基準面(データム)を必要としない公差です。

姿勢公差
基準となるデータムに対して、対象となる形体(線または面)がどれだけ傾いているかという角度的な狂いを規制します。平行度、直角度、傾斜度などがあります。

位置公差
基準となるデータムに対して、穴や溝などの形体(フィーチャ)の理論的に正確な位置からのズレを規制します。位置度、同軸度、対称度などがあります。

振れ公差
データム軸直線の周りに部品を回転させたとき、その表面がどれだけ振動したり(振れたり)ズレたりするかを規制します。円周振れと全振れの2種類があります。

幾何公差がドリル性能に与える影響
ドリル工具の精度や寿命を維持し、高品質な穴あけ加工を実現するためには、幾何公差を考慮することが重要です。 ここでは、幾何公差を「形状公差」「位置公差」「振れ公差」の3つに大別し、それぞれがドリル性能にどう影響するかを解説します。
形状公差
形状公差は、幾何公差の一種であり、「形の正しさ」を管理するものです。ドリルにおける形状公差には、真直度、真円度、円筒度などがあります。
特にドリルへ影響を与えるものとして、真円度、円筒度が挙げられます。
真円度とは、円形物体の幾何学的に正しい平面からの狂いの大きさのことで、円は半径方向で0.08mmだけ離れた同心の大小2円の間に入っていなければなりません。シャンクの真円度が悪いと、チャックでの保持力が不均一になり、振れが発生します。

円筒度とは、円筒形体の幾何学的に正しい円筒からの狂いの大きさのことで、円筒全体の表面は、半径方向で0.08mmだけ離れた同軸の大小2つの円筒の間に入っていなければなりません。ドリルの円筒度が崩れると、切削時のビビりや摩耗の早期進行に繋がります。

位置公差(同心度・同軸度・対称度など)
位置公差は「同心度、同軸度、対称度」から成り、一言でいうと、部品の穴や軸などが、「あるべき正しい位置」からどれだけズレてよいかを決める許容値のことです。
特にドリルへ影響を与えるものとして、同軸度、同心度が挙げられます。
同軸度とは、データム軸直線と同一直線上にあるべき軸線のデータム軸直線からの狂いの大きさを言い、対象となる軸線はデータム軸直線Aに同軸の直径0.08mmの円筒内に入っていなければなりません。ドリルの刃先の中心とシャンク軸の同軸度 がずれると、穴が真円にならず精度が出ません。

同心度とは、データム円の中心に対する他の円形形体の中心の位置の狂いの大きさを言い、対象となる円の中心はデータム円Aの中心に同心の直径0.08mmの円の中に入っていなければなりません。ドリルのシンニング加工で中心がずれると、切削抵抗が増し寿命が短くなります。

振れ公差(円周振れ・全振れ)
振れ公差とは「円周振れ」のことで、部品を基準となる軸(データム軸)まわりに回転させた時に、その部品の表面がどれだけ「振れ」てよいかを決める許容値のことです。
円周振れとは、データム軸直線を軸とする回転面を持つべき対象物または、データム軸直線に対して、垂直な円形平面であるべき対象物をデータム軸直線の周りに回転したとき、その表面が指定した位置又は任意の位置で指定した方向に変位する大きさをいいます。また、任意で場所の振れが0.08mmの範囲に入っていなければなりません。高速回転するドリルでは、刃先の振れが 0.01mm単位 で穴径や表面粗さに影響します。

特注精密ドリルを製作する際に、幾何公差で考慮すべきポイント
特注精密ドリルを製作する際に、幾何公差で考慮すべきポイントは、大きく2点あります。
幾何公差を満たすための工具製作プロセス
ドリルの性能を最大限に引き出すためには、刃先の振れを抑制する「同軸度」や「円周振れ」、チャッキング精度に関わるシャンクの「円筒度」や「真円度」など、複数の幾何公差を同時に、かつμm(マイクロメートル)単位で満たす必要があります。
しかし、これらの厳格な公差を安定して実現することは容易ではありません。単に高精度な研削盤を使用するだけでは不十分であり、工具の形状や材質、求められる公差の種類に応じて、最適な加工プロセスを設計する必要があります。
μm単位の精度管理を確実に保証するためには、
- 高精度な「CNC工具研削盤」
- 加工結果を正確に評価する「高精度な専用測定器」
- 設備を使いこなし、最適な工程を設計する「熟練した職人の技能とノウハウ」
これらすべてが揃って初めて、図面が要求する幾何公差を満たす工具製作が可能となります。
本当にドリルにその幾何公差が必要かを検証し、加工性と製造性でバランスを取る
特に医療分野で使用される特殊精密ドリルは、幾何公差の指示が多い傾向にあります。公差が厳しくなればなるほど、要求精度が厳しくなる分だけ、特殊な製造プロセス、高度な加工技術、そして厳格な検査体制が必要となり、さらに安全率もかかるため、全体的に大幅なコスト増加につながります。
しかし、実際に医師の方々や医療機器メーカーの方々にお話を伺うと、医療分野では外観が重要視されることが多く、実は品質面や精度は工具メーカー任せとなっていることが多いのも事実です。つまり、一般的な図面の作り方に従ったり、過去に製造した工具や規格品の図面を参考にして図面を製作すると、実は必要ない箇所まで幾何公差の指定が入っているケースも少なくありません。
このような事象は、医療分野に限りません。当社にご依頼いただくような規格外の特殊ドリルの図面を起こす際に、幾何公差の指示が過剰品質になっていることが多いのが実情です。
最終的な加工精度は、ドリルの幾何公差だけで決まるものではなく、工具を掴むチャックやホルダの精度や、工作機械の主軸のメンテナンス状態、CAMの最適化等々、「工具以外の要因」が適切に管理されていなければ、どれだけ高精度で高価な工具を使用しても、図面通りの幾何公差を達成することはできません。そして、過剰品質な幾何公差のままドリルを製造依頼しても、ただのムダになりかねません。
そのため、特注精密ドリルを製作する際に、幾何公差で考慮すべきポイントの2つ目は、本当にドリルにその幾何公差が必要かを検証し、加工性と製造性でバランスを取ることが挙げられます。医療分野では外観品質が重要視されるように、用途に応じて機能品質以上に必要な要求があるケースもあれば、逆に機能品質を落としてコストをとにかく下げる必要がある、でも実は工具の交換頻度が高いことがコスト増加要因になっているから工具寿命をとにかく長くしたい、という潜在的なニーズまで考慮する必要があります。本当に必要な幾何公差のみを図面で指定することが、ドリルの依頼側と製造側でのわだかまりを無くし、加工性と製造性で釣り合いを取ることにつながり、機能以外のニーズまで捉えた最も最適なドリルの製造の実現まで最終的につながるのです。
切削工具に関するお困りごとは、特殊精密切削工具.comにご相談ください
東鋼では、単に図面通りに工具を加工するだけではなく、 お客様の真のニーズをヒアリングし、そのために最適な工具の形状をご提案いたします。幾何公差は外観品質の管理方法を変えるなどで代替できる可能性もあり、お客様の真の目的を達成するための公差設計をサポートいたします。
幾何公差は、単なる図面上の記号ではなく、製品の性能・寿命・安全性を決定づける重要な要素です。
特に高速回転かつ微細加工を行うドリルでは、幾何公差の管理が難しく、それを実現できるかどうかがメーカーの実力を示す指標となります。
東鋼は、工業用から医療用まで、厳格な幾何公差を確実に保証できる製造技術を備えています。
「形状の正しさ」を徹底して守ることで、安定した切削性能と信頼性をお客様にお届けします。
ドリル刃を精密加工する際のポイントについて
https://special-precision-cutting-tool.com/column/004
ドリルの基礎知識・各部の名称【切削工具の基礎知識シリーズ】
https://special-precision-cutting-tool.com/column/drill-knowledge
設備紹介
https://special-precision-cutting-tool.com/facility
精密切削工具 品質保証
https://special-precision-cutting-tool.com/service/008-2
失敗できない時に選ばれる「東鋼品質」の工具製造技術
https://special-precision-cutting-tool.com/reason/r3



