技術コラム

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切削工具の基礎知識【ドリル編】

①逃げ面

穿孔する際、加工面との不必要な摩擦を避けるために逃がした面です。逃げ面が複数面からなる場合は、切れ刃に近い順に第1逃げ面、第2逃げ面などといいます。ドリルは回転しながら軸方向に進むことで被削材を削り、切りくずを後方に排出させて穴をあけていきます。逃げ面は、被削材が切削された面に触れる箇所であり、加工時の摩擦抵抗などに大きな影響を及ぼします。
>>逃げ面の2種類の形状

②逃げ角

逃げ面についている角度です。逃げ角は一般的に7°~15°に設定されています。被削材とドリルの摩擦を避け、ドリルの送り運動に支障をきたさないように、切れ刃の逃げ面には逃げ角が付けられています。逃げ角を小さくすると切れ刃の剛性は向上しますが、スラスト抵抗が増加します。反対に、逃げ角を大きくすると切れ刃は鋭利になりスラスト抵抗は減少しますが、チッピングや欠損が生じやすくなります。
>>逃げ角の設定角度

③先端角

ドリルの先端の角度です。最も一般的な角度は118°です。先端角は、切削抵抗と切り込み量に影響し、被削材やドリルの材質などによって最適な角度は変わってきます。
先端角を大きくした場合、切りくずの排出性、加工能率、工具寿命が向上するといったメリットがあります。一方で先端角を小さくした場合、食い付き、切れ味が向上するといったメリットがあります。
したがって、一般的にはアルミや真鍮などの軟質材で被削性の良い材料は先端角の小さいドリル、チタンやステンレスなどの硬い被削材や高能率加工では先端角の大きいドリルが最適です。

④ねじれ角

ドリルの軸を0°とした時に切れ刃がどれくらい傾いているかを示す角度です。一般的にねじれ角は約30°で、これよりも小さい場合を弱ねじれ、大きい場合を強ねじれと呼びます。
ねじれ角は、切りくずを穴の外に出す働きと切削油を切れ刃まで届ける役割を持っています。ねじれ角が小さいとスパイラル長さが短いため切りくず排出性は良くなりますが、すくい角が小さく切削抵抗が大きくなります。反対に、ねじれ角が大きいとすくい角が大きくなり切削抵抗は小さくなりますが、切れ刃コーナが鋭利になり、チッピングや欠損が生じやすくなります。

⑤マージン

ランド上の二番取りをしていない円筒面部分です。穴を開ける際にドリルの外周におけるガイドの役割を果たします。バニッシュ効果により加工面粗さを向上させます。
通常、1つの切れ刃につき1つのマージンを取り付けますが、マージンを2つ設けたダブルマージンにすることで穴加工精度を向上させます。

⑥マージン幅

マージンの幅のことです。マージン幅はドリルのガイド性と摩擦抵抗に影響します。一般的には、ドリル径の5~10%程度に設定されています。マージン幅を小さくすると摩擦抵抗は小さくなりますが、ガイド性が悪くなります。一方で、マージン幅を大きくすると摩擦抵抗は大きくなりますが、ガイド性は良くなります。

⑦チゼル角

ドリルの端面から見た時にチゼルエッジと切れ刃がなす角のことです。
チゼル角は切削能力がなく、被削材を「こじる」ような作用をします。チゼル角を大きくすると、切削抵抗や振れが大きくなります。一方で、チゼル角を小さくすると、刃先の強度が不足し、欠損しやすくなります。チゼル角はドリルの先端角や逃げ角によっても変化します。チゼル角は被削材や加工条件に応じて適切に設定する必要があります。

⑧チゼルエッジ

穴を開ける際、ドリルの回転の中心となる部分のことです。
チゼルエッジは切れ刃として機能しないため、被削材を加工する際、押しつぶしている状態になります。また、チップポケットが無く切削速度も低いため、大きなスラスト抵抗がかかります。チゼルエッジが大きいとスラスト抵抗が増加し、求心性が悪くなります。反対に、チゼルエッジが小さいとスラスト抵抗が減少し、求心性が良くなります。
アルミや真鍮などの軟らかい被削材に対しては、チゼルエッジを小さくすると切れ味が良く、ドリルが切り込みやすくなります。反対に、チタンやステンレスなどの硬い被削材に対しては、チゼルエッジを小さくすると割れやすくなるため、大きい方が適しています。

⑨シンニング

ドリルの先端部のチゼルエッジに切れ刃を作るために設ける溝のことです。シンニングは、チゼルエッジを短くすることにより、切れ味を良くして切削抵抗を減らし、切りくずの排出性を向上させます。また、切削抵抗や切りくずの排出性が改善されることにより、ドリルにかかる負荷が低減されるため、ドリルの寿命を延ばします。

⑩リップハイト

ドリルを回転した時の、切れ刃の高さの差のことです(JIS B 0171)。リップハイトはドリルを回転させた時、軸に対し均等になるように設ける必要があります。均等でないと、ドリルの先端が振れやすくなり、加工後の穴が曲がったり、ドリルが折損する可能性があります。

⑪溝

隣り合った切れ刃とヒールとの間に設けられた切りくずを排出するための溝のことです。溝は、切削する際にできる切りくずを外に排出する役割を持っています。

⑫溝長

軸に平行に測った切れ刃先端又は外周コーナーからの溝の切上げを含む溝の長さのことです。溝長は穴の精度やドリルの寿命に影響を与えます。溝長を短くすると、切りくずの排出性が悪くなります。しかし、溝長を長くしすぎるとその分だけドリルが長くなり、ドリルの剛性が低下し、折損しやすくなります。

⑬溝幅

軸直角断面上の、溝の幅のことです。溝幅は、一般的にはドリルの外径の10~20%程度とされています。溝幅を大きくすると、切りくずの排出性が良くなりますが、ドリルの剛性が低下します。一方で、溝幅を小さくすると、切りくずの排出性が悪くなりますが、ドリルの剛性が向上します。

⑭リード

ドリルが1回転した時、軸方向に進む距離のことです。リードは、ドリルのねじれ角や切れ刃の形状に影響します。リードを長くすると、ねじれ角が大きくなり切れ刃が鋭利になりますが、切りくずの排出性が悪くなります。一方でリードを短くすると、ねじれ角が小さくなり切れ刃が鈍くなりますが、切りくずの排出性が良くなります。

⑮ランド幅

軸直角断面上の、ランドの幅のことです。ランド幅は、ドリルの外径の5~10%程度が適切とされています。ランド幅を大きくすると、ドリルの直進性や穴の真円度が向上しますが、摩擦が増えて熱が発生しやすくもなり、ドリルの寿命に影響を与えます。一方で、ランド幅を小さくすると、摩擦は減りますが、ドリルの直進性や穴の真円度が低下します。

ドリルに関するお困りごとは、特殊精密切削工具.comにご相談ください

今回は、シンニングの形状について解説しました。ドリルの新規開発や既存工具の改造をご検討の際は、「切削理論」と「材料特性」を熟知している特殊精密切削工具.comにご相談ください。

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